■  〈In Region〉伝統の上の現代美を目指す 南部鉄器製作、佐藤学さん

 盛岡市の佐藤学さん(41)は、東京都新宿区で開かれた「第2回和のある暮らしのカタチ展」で審査員特別賞を受賞した。同市繋の手づくり村で南部鉄器を13年間修業した後、独立。現在は鉄瓶を製作するかたわら、鉄瓶を作る鉄を溶解するための木炭づくりを勉強中。木炭に始まり木炭で終わる鉄瓶の深い世界に驚きと感動の日々を過ごしていると話す。


     
  炭焼きを修行中の鉄瓶職人佐藤さん(焙煎工房しゃおしゃんにて)  
 
炭焼きを修行中の鉄瓶職人佐藤さん(焙煎工房しゃおしゃんにて)
 

 受賞作品はただの南部鉄瓶ではない。省スペースの室内でも本格的に木炭を使ってお湯を沸かせる七輪セット。

  五徳と火箸(はし)は田中鉉(つる)工房に製作を依頼。白い七輪は自らデザインを示して北杜窯に製作してもらった。縄文土器の尖(せん)底土器をイメージし、とんがり底になっている。風穴を3カ所開け、栓で火力を調整できる。

  卓上で使える優れた機能に加え、デザイン的にも鉄瓶と七輪の調和を追求した。七輪の上に鉄瓶が乗っているのに、そうとは思えないほどスマートな形。七輪のとがった底と乗った鉄瓶の柔らかな曲線が斬新なデザインを生み出した。

  佐藤さんは職人に強いあこがれがあったという。南部鉄器の溶解作業を初めて見た時「ぼっと炎が舞い上がり純粋に格好いい。これだ」と思ったという。

  27歳で鉄器業界に飛び込んだ。2年間、南部鉄器を作る機械作業に従事した後、手づくり村の薫山工房に11年間勤め、昨年の1月に退職。現在は独立し雫石町で25坪ほどの建物を改修して工房を開いている。ようやく工房らしくなったのは先月だった。

  独立して新たに工房を構えると新しい道具が必要になる。特に鉄瓶の鋳型である実型(さねがた)は師匠から譲り受けるものだが、現在では実型を作る職人がほとんどいない。そこで伝承などをもとにレンガ材や川砂などを用いて製作した。

  「実型は大変貴重で職人はぼろぼろになっても使うもの。自分で道具を作るのは大変だが、自分だけの道具を一から作ることはそれだけで楽しさがある」と話す。

  8年ほど前、盛岡地域地場産業振興センターで地元の企業家が集まり、木炭を使って商品開発する機会があった。そこで木炭と鉄瓶の関係について考えるようになった。もともと鉄器を作るには木炭は必需品。木炭で鉄を溶かす。岩手は木炭の生産量日本一で鉄瓶と木炭が似合わないはずがない。

  そこで炭焼き職人に弟子入りを志願し、昨年の10月から雫石の山に入り鉄瓶づくりに不可欠な木炭づくりを修業中だ。

  「木炭が本来の目的で使われて鉄瓶の底を温める。木炭が燃えているのを見ているだけでも心休まるが、鉄瓶の底がくつくつと音を立ててお湯が沸いていく。その音にまた癒やされる」。

  お湯の沸く音は昔から「初めはちゅうちゅう、松風、カニ目、雪輪(ゆきわ)」などと例えられているという。松風は松林を風が通り抜ける音、カニ目はカニが泡を吹くように細かくクツクツという具合。雪輪は木車に雪が付いて回転が不規則になり、コトンコトンという音を立てる様子を表している。

  佐藤さんは南部鉄器と接することで「つながっている」と感じる。古い鉄瓶の修理を頼まれると、100年前の職人の息づかいを感じことができる。「ここに苦労したんだな」「ここは手を抜いているな」と細部から当時の思いが伝わってくる。

  鉄瓶が木炭によって生まれ、木炭によって生かされる。その木炭と鉄瓶の究極の形にほれ込んでいる。

  「静けさの中で鉄瓶と木炭の奏でる音にゆったりとした時を過ごしてもらいたい」と期待している。

  七輪セットは価格7万円。問い合わせは盛岡地域地場産業振興センター(電話689−2201)。


本ページ掲載内容の無断転載を禁じます
ホームページに関するお問い合わせ、取材に関する情報は
E-Mail:hensyuu@morioka-times.com
盛岡タイムス宛てにお願いします